何が生き甲斐か

白道燃ゆ

 大都市の一流のデパートには10万種類の商品があるそうだ。地階から屋上まで、日用品の必需物資から奢侈品に至るまで、あらゆる商品が陳列されている。

 仏法では、我々の煩悩は8万4千に集約されるといわれるから、デパートへ行けば大体叶えられそうである。

 しかし、8万4千の煩悩とは、我々の欲望は無限だということである。最低生活の衣食住が一応安定すると、今度はあれが欲しい、これが欲しいと高望みをする。電気洗濯機も、電気冷蔵庫も手に入れたから、今度はステレオ、お次は乗用車。女性なら訪問着、ミンクのコート、ダイヤの指輪、といった調子で煩悩無尽で、尽きるところがない。

 ラジオ、テレビ、新聞は、これでもかこれでもかと大衆のツボを心得て、宣伝広告に大童である。

 いやが上にも、煩悩をかきたてられた人々は奢侈品に手を出し、優越感ならざる優越感に浸ろうとするから悲劇だ。子供の勉強机さえ買えないのに、電気掃除機を備えている。自家用車があっても車庫がない。車庫どころか浴室もないので、自動車で銭湯通いをしている者もいる。イワシを食べながら、ステレオという人種もいる。

 これは当然のことで、限度のある収入しかないのに、欲望は無限なのだから、アンバランスにならざるを得ない。

 たとえ、収入がふえても、イヤ、ふえればふえるだけ満たされない焦燥感と不安は益々激しくなり、この世の地獄を展開するのだ。

 しかも、この焦燥感や不安感は、衣食住の満たされなかった時代のものよりも、より深刻で広いものである。

 大きなことを言ったところで、どうせ人生はなるようにしかならないのだ。それよりも、君と僕と、あの鉄筋コンクリートのアパートで、ささやかな幸福を求めて暮らそうじゃないかということになる。

 現代人の多くは、家庭を一大事に守り、一家だんらんに人生の最終目標をおいている。もう30年後の退職金の胸算用をしている。10年目に土地を買い、15年後に家を建て、子供の数は家族計画で2人にする、といった調子である。

 勿論、そこには、朝に紅顔あって夕に白骨となる無常の我が身のことなどは、夢にも計算されていない。

 会社勤めは家族安住の為の手段に転落しているから、こんな人間が多くなればなる程、自分も不幸だし、会社も世間も助からぬ。

 果たして、家庭を守ることに我々は、生き甲斐を感ずることができるであろうか。

 自己中心の生活をしていて、生き甲斐が出てくる筈がない。自殺や家出の理由が、世間的に何の不自由もない家庭に多いのは、このことを証明している。

 釈尊が『大無量寿経』に、
「世人、薄俗にして、不急のことを諍う。尊となく卑となく、貧となく富となく、少長男女とも、銭財を憂う。田有れば田を憂え、宅あれば宅を憂う。たまたま一あればまた一を欠く。有無また同じ。人間愛欲の中にあって、独り生まれ、独り死し、独り去り、独り来る」
と、説かれている通りである。

 この人生の実相を凝視して、南無阿弥陀仏に、全生命を投入する時、初めて 「われ、生きるしるしあり」の踊躍歓喜が湧き上がるのだ。

 同時に、矢でも鉄砲でも持って来い、のファイトも起きる。

 かくて、一関また一関、波高ければ船また高しの、無碍の大道が開かれるのである。

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更新履歴

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