(63)富んでも、昔の貧しさを忘れ、おごるなかれ
   ~岩崎弥太郎とその母~

光に向かって

みな変わる(光に向かって)

 明治前期の大実業家・岩崎弥太郎は、剛直果断の性格で、明治時代の代表的富豪であった。

 ところがどうしたことか、常に藁草履をはいたまま、大臣の官邸などに出かけた。不審に思った人がたずねると、
「母の言いつけだ」
と答えた。

 岩崎弥太郎の母は、わが子が天下の富豪になってからも、常に藁草履を作ってはいていた。

  そして弥太郎にも、
「おまえも、これをはきなさい」
と言って、
「富んでも、昔の貧しさを忘れて、おごってはなりませんよ」
と教訓したという。

 

 ある人が、アメリカの大実業家のところへ、救済事業の寄付をたのみにいった。

  実業家は、そのとき、
「ほんのわずかばかり使えばすむものを、なぜこんなにたくさん使ったのだ」
と、使用人を叱っている。

 なにをそんなに、叱られるほど使ったのかと、よくよく聞けば糊であった。

 たかが糊ぐらいのことで、あんなにケチケチしているのだから、寄付などは思いもよらぬことと思いながらも、せっかくきたのだからと用件を話すと、即座に、500ドルの大金を、快く寄付してくれた。

 ことの意外に、びっくりしてたずねると、
「私は平生、少しの糊でも無駄にせぬように心がけている。だから寄付もできるのです」
と、答えたという。

 物を粗末にする者は、物から嫌われるから、不自由しなければならないのだ。

 すべては人生の目的を果たすためのものなのだから、わずかの物でも粗末にしてはならない。

 

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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