(74)最初から負けていた
勝利のカギ
数が勝利をもたらすことが多い。だがその数よりも勝利の要素がある。団結である。
天下分けめの関ヶ原の合戦が、雄弁にそれを物語っている。
徳川家康ひきいる東軍と、石田三成の西軍とでは、東軍が明らかに劣勢だった。
明治時代、日本陸軍の指導にきていたドイツ軍の参謀が、関ヶ原の配置図を見て、
「西軍が負けたとは、信じられない」
と語ったエピソードがあるほどだ。
両軍あわせて2万5千挺の鉄砲を集中した、当時としては、世界最大の戦闘である。
その火力においても西軍が勝っていた。にもかかわらず、西軍が、なぜ敗れたのか。
戦争の勝敗に決定的要素となる団結が、東軍に劣っていたからである。
統率者の石田三成に人望がなく、加藤清正、福島正則といった秀吉子飼いの猛将たちに造反されてしまった。
加えて淀君と、秀吉の正室である北政所の確執が、関ヶ原における西軍の小早川秀秋の裏切りを呼んだ。
こんな状況では、最初から西軍は負けていたのと同じである。
第二次大戦で独裁者ヒットラーのドイツが敗れたのも、同じことがいえる。
1944年、ヒットラーは国防軍のしかけた爆弾で、あわや暗殺のピンチに立った。
カナリス軍情報部長や、空軍大臣のゲーリングさえ、アメリカと通じあっていたのである。
人望がなかったのは、ヒットラーばかりではなかった。
戦争中、ナチスドイツの幹部が、女の問題でケンカをしていたという。
原因が女であれなんであれ、最も団結を要する戦いに、幹部が不統一だということは、戦わずして負けたも同然だ。
関ヶ原の西軍も、ナチスドイツも、団結という勝利のカギを失っていたのである。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)