(66)まもなく、若い社員の一人が解雇された
~排他は自滅~
ある会社で『投書箱』が設置された。
「社内の設備、社員の勤務ぶり、上司への注文や希望、その他、何事によらず、気づいたままを投書してもらいたい。
鍵は、社長のみが持っているので、投書者の氏名も投書内容も、外にもれることはない。改善の参考にしたい」
投書箱ができたと同時に、こんな説明書が全社員に配布された。
2、3日は、ようすをうかがっているようだったが、5日目に、だれかが投書した形跡があった。
“相当長い文面だった”
社長がこっそり、投書を出しているところを見た秘書の口から、社員の間へ広まった。
社内は緊張し、社員たちはビクビクしていた。
まもなく、若い社員の一人が解雇された。
それは投書者自身だったことが、後日、判明したのである。
投書の内容が、人身攻撃と自己弁護で埋められていたのだ。
“このような人間は、社内の和合を乱すだけ”
と社長は、問わず語りに言ったという。
森の中の1本の若木が、きこりにたのんだ。
「おれの周囲の大きな木を、みな切り倒してくれないか。
おれが十分に太陽の光をあおげないのも、自由に根をのばすことができないのも、みな周囲の大木のせいなのだ」
きこりはそこで、森の木をかたっぱしから切り倒した。
若木は、自由に手足をのばせるようになったと喜んだが、たちまち起こる暴風に、ひとたまりもなく、吹き折られてしまったという。
若人は、うぬぼれやすい。
自己を過信しているから、挫折が多い。
すべてに整然たる組織があるのに、師長をあなどり、じゃまあつかいし、非難攻撃排斥して、自分が有利な地位に立とうとする。
一家にしては、舅姑の大木を嫌い、夫婦のみの家庭で、自由に手足を伸ばす放縦な生活を望んでいるが、社会の悪風には、ひとたまりもなく破滅しなければならないのである。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)