(69)笛を高く買いすぎてはいけない

光に向かって

なりきる尊さ(光に向かって)

 政治家、外交官、著述家、物理学者、アメリカを独立へと導いたフランクリンは多才である。

 ボストンの貧しいローソク屋に生まれた彼は、少年時代、笛がほしくてたまらなかった。

 ある日、思わぬお金をもらったので、こおどりして玩具屋にとびこんだ。

「笛をください。よく鳴る笛を」

 うれしそうな少年に、ずるそうな店頭の主人が問う。

「坊や、いくら持ってる?」

「これだけ」

 純真なフランクリンは、手のひらを開いて、すべてを見せる。

「よし。それだけあるなら、笛を一つあげよう」

 夢みていた笛を吹きながら家に帰って、得意になって、一切を兄弟に話すとミソクソだ。

「なんておまえは、ばかなんだ。それだけあれば、そんな笛は4本も買えるぞ」

 あざけられ、急にしおれてしまったフランクリンに、父親は、こう諭している。

「人間は、なにかほしくなると、真価以上に高く買いすぎるものだ。よくよく気をつけねばならないよ」

 父の言葉が胸にしみこんだ彼は、酒色にふける人を見るとこう思った。

「あの人は、一時の楽しみのほしさに、多くの犠牲を払っていることを知らない。やっぱり笛を高く買いすぎている人なのだ」

 借金してまで着飾っている人には、
「あの人も、服装の値うちをあまりにも高く見ている。つまりは笛を高く買いすぎているんだ」

 また、守銭奴には、
「あの人は金がほしさに、金の価を買いかぶりすぎている。あれも笛を高く買いすぎている仲間だ」
と、一生の教訓としたという。

 ストーブや避雷針の発明、図書館の開設や道路舗装など、実際生活の向上に貢献したのも、うなずける。

“仕事を追い、仕事に追われるな”

 彼の格言の一つである。

 

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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更新履歴

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