(71)下等の人間は舌を愛し、
中等の人間は身を愛し、上等の人間は心を愛する
アメリカの大統領に、クリブランドが当選したとき、獄中の男の一人が長嘆息している。
「やはり、あの方が当選されたか。立派だったものなぁ」
「おまえは、クリブランド氏を知っているのか」
看守が不審に思ってたずねると、
「中学卒業のときは一、二を争って出たが、祝いに酒飯にいこうと誘ったところ、クリブランド氏は“味よきがゆえに断つ”と言って、途中から帰ってしまった。おれは一度ぐらいなんだ、これが最後だ最後だ、が、たび重なって、ついに今日のように雲泥の差が生じてしまったのだ」
と述懐したという。
同じ身体を持ちながら、同じ才能を有しながら、目的を達せずして奈落に沈んだのは、勇猛精進の克己心がなかったからである。
下等の人間は舌を愛して、身を愛さぬ。
中等の人間は身を愛して、心を愛さぬ。
上等の人間は心を愛するがゆえに、克己して勇猛精進する。
偉業を成就せんと志す者は、すべからく衣食に心を奪われてはならない。
頂上を極める者は弊衣粗食、よく初志を貫徹する者である。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)