(68)おまえはなぜ、3階を建てんのだ
~本末を知らぬ愚人~
愚かな人が、友人の建てた3階建ての新築落成式に招かれていった。
田舎には珍しい、3階建ての広壮な建物に、彼はまず驚いた。
友人は、なによりも、3階のすばらしい展望を自慢する。
彼も、そのあまりにもみごとな景観に驚嘆した。
そこで彼は、こんな展望のよい家を、自分もぜひほしいと思った。
さっそく、村の大工を呼んで依頼した。
「大至急、3階建ての家を建ててくれ」
彼は、親の資産を受けついで、村一番の富豪であったので、金にいとめをつけなかった。
しかも彼は、せっかちな男だった。もうそろそろ完成しただろうと思って、ある日、建築現場にいってみた。
大勢の大工たちが基礎工事に、大地を深く掘りおこしている。
それをみた彼は、大工連中を集めて叱りつけた。
「おまえたちはいったい、なにをしているのだ。オレがあれほど、展望のよい3階建てを建ててくれと言っておいたのに、地下など掘ってなにをするのだ」
恐縮しながら大工の棟梁が答える。
「それにはなんといっても、しっかりした基礎が大事で、ここに十分力を入れておかんと3階が狂ってくるので……、これから1階、2階と徐々に仕事を進めるつもりでいます……」
すると彼は、憤然としてどなった。
「オレはおまえらに、1階や2階を建てよと、たのんだことはない。オレは3階だけでよいのだ。それなのに、おまえたちは、なぜ3階を建てんのだ」
それをきいた大工たちは、クスクス顔を見あわせて笑った。
基礎を無視して3階の展望のみを求め、求めえずして、嘆き、悲しみ、怒っている者の、いかに多いことか。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)