(60)己を変えれば、夫も妻も子供もみな変わる

光に向かって

みな変わる(光に向かって)

 禅僧・盤珪(ばんけい)が雲水のころである。
 毎夜、千住の磔柱のもとにいって座禅をしていた。

 ある朝、座をたち、近くの馬場の土手で休んでいると、一人の立派な武士が、馬のけいこにやってきた。
 それとなく見ていると、どうやら馬のごきげんが悪く、武士の思うようにならぬらしい。

 どなりながら武士は、しきりに馬を責めている。
 それをみた盤珪。
「なんのざまだ!」
と大喝した。

 それを耳にもかけぬふうに武士は、ますます馬に鞭をあてる。
「ええ、なんのざまだ!」
 二度三度の大声に、ようやくふりかえった武士は、馬から飛び下り、静かに盤珪に近づいてきた。
「貴僧は先ほどから、どうやら拙者を叱っておられるようだが、教えることあらば、承りとう存ずる」
 すこぶる言葉は丁寧だが、返答次第によっては、の気迫がありありとうかがえる。

 毅然とそのとき、こう盤珪は諭した。
「馬がいうことをきかぬといって、馬ばかりを責めるのは、いたって愚かなこと。馬にも馬の事情があるはず。
 馬にいうことをきかそうと思うなら、馬がいうことをきくように、しむけてやらなくてはならぬ。
 まず、自分を改めることが一番じゃ。おわかりかな」

 謙虚で賢明な武士であったのだろう。
 深くうなずき一礼して退き、態度を改め、ふたたび馬上の人となった。
 ところがどうだろう。
 馬が変わったように、騎手の命ずるままになったではないか。

 私がこうなるのは、夫が、妻が、子供が悪いからだと、他人ばかりを責めている間は、真の平和は訪れない。
 まず自分を反省し、己の姿勢を正すことが肝要。

 己を変えれば、夫も妻も子供も、みな変わる。
 家庭も明転すること、うけあいだ。

 

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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