はじめに|親鸞聖人の花びら
はじめに
「一々の花のなかよりは
三十六百千億の
光明照らして朗らかに
至らぬ処はさらになし」(親鸞聖人)
大輪の妙華が心に開いた、親鸞聖人の述懐です。その無数の花びらから漂う香気は、大衆を魅了して今もやみません。
時あたかも750回忌もあり、書店には聖人に関する書籍が並び、各地で「親鸞展」なるものも開催され、「親鸞ブーム」と評する人もあるようです。
聖人を賞賛し慕う声は、満ちています。
たくましい生きざまに感嘆する人、肉食妻帯の勇気に感服する文豪、透徹した自己洞察に脱帽する評論家、深遠な哲学に驚嘆する思想家もあります。
あるものは弥陀の慈悲の化身と感激し、あるものは秋霜烈日の冷厳さに襟を正します。
まさに汪洋たる大海のように、親鸞聖人はとらえようのない方のようです
アフガンで8歳の女の子が、爆弾入りの小包を持たされて爆死しました。女児は何者かに頼まれて警察施設に小包を運んだのですが、遠隔操作装置が組み込まれていて、近づいたところで爆発させたのだ。
人間とも思えぬ残酷な所業が、日夜、繰り返されているのです。
無知と貧困こそ、暴力とテロの温床といわれますが、情報があふれ、衣食住の潤沢な世界も、固唾を呑む愁嘆場と少しも変わりはありません。
想定外の津波で、すべてを失う火宅無常の世界も、そらごとたわごとに狂う煩悩具足の人間も、なんの進化も見られません。
「煩悩具足の凡夫、火宅無常の世界は、万のこと皆もって、そらごと・たわごと・真実あることなきに、ただ念仏のみぞまことにておわします」
(親鸞聖人)
800年前とは思えぬ真実の言葉に魅了され、「ただ、念仏のみぞ真実」とは何ぞや。
聖人の言葉に耳を傾ける人の多いのもうなずけます。
ところが、この書にあげた質問・疑問が物語っているように、声高の割りに親鸞聖人の教えを知る人の少ないのに驚くのです。
人類にとって、これほどの甚大な損失はなく悲しい限りであります。
そこでこのたび、40年来、親鸞聖人について投げられた問いに、筆者がそのつど、簡略に答えたものを集めてみることにしました。
中でも特に、なぜ世界の光といわれるのか、最も知りたいであろう、聖人の教えに主眼を置きました。
蓮如上人が生涯、親鸞聖人の教えの徹底のみに尽くされたように、聖人の教えの花びら一片なりとお届けするしか、洪恩に報いる道なしと確信するからであります。
平易に心がけたつもりでありますが、難解に感じられるのは、要因は筆者にありお許しください。
小著によって、親鸞聖人の教えの香気に少しでも触れていただき、より広く深く聖人の信仰に接せられる方があれば、本望これに過ぎることはありません。
合掌
平成23年 初秋
著者識す