(2)約束は、必ず、
はたさなければならない
歴史家で有名なナピールが、ある日、散策していると、路傍にみすぼらしい少女が陶器のカケラを持って泣いている。
やさしくわけをたずねると、少女の家は親1人子1人。親が大病なので、家主から1リットル入りのビンを借りて、牛乳を買いにゆこうとして落として割ったのだ。
家主に、どんなに叱られることかと泣いていたのである。
あわれに思ったナピールは、ポケットから財布を出してはみたが貧乏学者、一文の持ちあわせもない。
「明日の今ごろ、ここへおいで。牛乳ビンのお金は、私があげるから」
少女とかたく握手して別れた。ところが翌日、友人から、
「君の研究の後援者になろうという富豪が現れた。午後は帰ると言っているから、ただちにこい」
という至急の伝言である。
しかし富豪に会いにゆけば、少女との約束を破らねばならぬ。ナピールはさっそく、友人に返答した。
「私には今日、大事な用件がある。まことに申し訳ないが、またの日にたのむ」
そして少女との約束をはたした。
富豪は、ナピールを思いあがったやつだと、一時は怒ったが、後日それを知ると、いっそう信用を深め、彼を強く後援した。
金持ちほど怒りっぽく、あつかいにくいものはない。いつも金で、何事も自由にできる、と思っている。
また金で、約束を破り節をかえる金銭奴隷が、いかに多いことか。
『儲け』は「信用のある者へ」と書いてある。
たとえ自分に不利益なことでも、誓ったことは、必ずはたすのが信用の基である。
はたせぬ約束は、はじめからしないこと。相手に迷惑をかけるだけでなく、己をも傷つける。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)