(6)お嫁にいったら、
   毎日よい着物を着て、
   おいしいものを食べて、よくお化粧するのですよ

光に向かって100の花束

 富豪ドンマカセンの夫人は、賢夫人の名が高かった。
 その一人娘も、たいへん聡明だという評判だった。
 リキミという大臣の夫人が、ぜひ、息子の嫁にと婚約がまとまった。
 夫人はそこで、ドンマカセン邸を訪ねてみた。
 すると母親が娘に、こんこんと、こう教えているではないか。

「いいかい、いつも言っていたように、お嫁にいったら、毎日よい着物を着て、おいしいものを食べて、よくお化粧をするのですよ」
“これはとんだ嫁をもらったものだ”と思ったが、いまさら、破談にするわけにもいかず、複雑な気持ちで帰宅した。

 無事、結婚式は終わったが、今後のことが案じられてならぬ。
 ひそかに嫁の言動を観察していても、起床は早く、家や庭の掃除をし、洗濯もする。
 舅姑や、主人の面倒見もよく、台所の整理整頓も、おみごとの一語に尽きる。
 どこにも、浮いたようすは微塵も見られない。
 そこで彼女は、かねての疑問をきいてみずにおれなくなった。
「あなたは家を出るとき、毎日、よい着物を着て、おいしいものを食べて、お化粧をするようにと、お母さまから教えられていなさったが、そのようになさっていないのでは……」

「お母さま。実家の母の、よい着物を着よと申しますのは、清潔なものを身に着けよ、ということでございます。
 おいしいものを食べよと申しましたのは、労働をすればどんな物でもおいしくいただけるから、まめに身体を動かせ、ということでございます。
 また、お化粧をせよと申しましたのは、家や庭、部屋や台所の清掃のことでございます」

 答える彼女の笑顔は、輝いていた。
 ドンマカセン夫人の優れた教育に、姑は、いまさらながら感嘆したという。
“きれい好き”ということは、いかなる場合にも女性の、大きな美点にちがいない。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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更新履歴

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