(8)夫婦は
   もともと他人である。
    だからケンカもする

光に向かって100の花束

 夏の暑い日、主人が帰る。
「いま帰ったぞ。ああ暑かった」
「おかえりなさい。暑かったでしょう。家にいてさえ汗が流れたのに、一生懸命働きなさって。マア! この汗。太郎、うちわであおいであげな」
「ナーニ、これくらいの暑さ。オオ、もう一ぺんいってこようか」
となるが、
「おかえり。夏ですもの、あんただけが暑いのではないのよ。大きな顔しなさんな」
 とくると、
「ナニ、このふてくされめが」
となる。
 男には、三軍を叱咤するような気持ちのおこるときと、子供のように甘えたいときがある。
「とにかく、おれについてこい」
と、たのもしくリードするかと思えば、
「オイ、母ちゃん、耳のあかをとってくれや」
と、膝枕でヨダレを流したりする。

「オイ、1万円だぞ」
と、奥さんに渡すと、
「1万円、1万円と、えらそうに言わずに、あるだけみんな出したら」
「男には、交際があるんだ」
「つきあい、つきあいと言って、よそばかりで飲まないで、家で飲んだら、どうォ」
「豚の尻みたいな顔見て、飲まれるか」
「長い間、がまんしてきたが、こんなに侮辱されたことないわ。17年前、一緒になってくれにゃ死ぬと言ったのは、どこのどなただったのよォ!」
「このやろう!! 昔のことを引っぱり出しやがって……」
と、収拾つかなくなる。

 なぜ夫婦ゲンカが、おこるのか。

 男は47、女は48の歯車でかみあっている。突然1つの山が、かちあうときがある。
 どちらかが“すみません”と、詫びをいれればいいが、はりあうと歯車は、かちあった状態のままになる。
 要は一心同体と考え、無礼な言動が原因だ。
 夫婦はもともと、他人であることを、忘れてはなるまい。

高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)


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更新履歴

2015.01.08あわれむ心のないものは恵まれない~試された親切心(光に向かって)

2014.01.22すぐ100万円を持っていったのは、なぜか~恩知らずになりたくない(光に向かって)

2014.01.22殺して生かす ~相手を裏切り、ののしられ、迫害も覚悟しなければならぬこともある(光に向かって)

2013.11.25甚五郎のネズミはうまかった~技量と智恵(光に向かって)

2013.11.25だから青年白石は三千両を拒否した~信念は未来を開拓する(光に向かって)

2013.09.30世界一おいしいご馳走ができあがりました、と料理人は言った(光に向かって)

2013.09.30最初から負けていた~勝利のカギ(光に向かって)

2013.08.24大石内蔵助の13年間~先見と熟慮(光に向かって)

2013.08.24生活の乱れた学生の更生法~大学教授のたくみな指導(光に向かって)

2013.07.25下等の人間は舌を愛し、中等の人間は身を愛し、上等の人間は心を愛する(光に向かって)

2013.07.25牛糞を食わされた祈祷師(光に向かって)

2013.06.07笛を高く買いすぎてはいけない(光に向かって)

2012.10.04おまえはなぜ、3階を建てんのだ 本末を知らぬ愚人(光に向かって)

2012.10.04やめよ!やめよ!と突然、早雲は叫んだ なりきる尊さ(光に向かって)

2012.09.06まもなく、若い社員の一人が解雇された 排他は自滅(光に向かって)

2012.09.06猫よりも恩知らずは、だれだ 腹立てぬ秘訣(光に向かって)

2012.08.06人を身なりで判断はできない 一休と門番(光に向かって)

2012.08.06富んでも、昔の貧しさを忘れ、おごるなかれ 岩崎弥太郎とその母(光に向かって)

2012.05.30この娘を美しくないという者があれば、金子千両を出してやろう(光に向かって)

2012.05.30施した恩は思ってはならぬ。受けた恩は忘れてはならない(光に向かって)

2012.04.10己を変えれば、夫も妻も子供もみな変わる(光に向かって)

2012.04.10これへ、その下肥とやらをかけてまいれ、とバカ殿 偶像崇拝(光に向かって)

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