(20)きっと持っていけと
言いますから
大政治家フィリップの少年期
(Photo by the girl)
フランスの片田舎に住む正直者のジャック。貧乏で隣家の借金が返せず、やむなく飼っていた雌鶏を5、6羽、かわりに引きとってもらった。
翌日、ジャック夫婦が畑にでたあとへ、雌鶏が打ち連れて古巣へ里帰り、卵を5、6個産みにきた。
留守番していた7歳の息子フィリップは大喜び。
「お母さんが帰ってきたら煮てもらおう」
と、小かごに拾いあげようとして、ハッとした。
雌鶏はもう自宅のものではない。ならば卵は隣家のもの、と気がついたからである。
さっそく、先方に届けたフィリップに感心した隣人はたずねた。
「お父さんか、お母さんの言いつけかな」
「いいえ、二人とも畑へいっています。帰ってきたら、きっと持っていけと言いますから」
フィリップの正直に感動して雌鶏2羽をほうびにくれた。
フィリップは後に、フランスの大政治家になっている。
正直を貫けば必ず成功する。世の親たちはフィリップのように子供を育てているだろうか。
7、8歳のかわいい娘を連れた婦人が、電車に乗ってきた。
前の奥さんが、子供にきいている。
「かわいい嬢ちゃんですこと。おいくつになるの」
「お母ちゃん。家のときの歳を言おうか、電車に乗ったときの歳を言おうか」
ときかれて、赤面した母親をみたことがある。
わずかな乗車賃を惜しんでウソを教え、無垢な魂に傷をつけてはいないだろうか。
横にはっている親ガニが、まっすぐ歩めと子ガニに言っても詮ないこと。
針が正しく進まねば、糸の曲がるのは当然であろう。
親たる者、どんな貧苦の怒濤も乗り切り、正直に強く生きねばならぬ。
かわいい子供のためにも。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)