(23)本来の女性は、
人生の大地のようである
事業に失敗し、ぼうぜんと帰宅した男が、妻にこういった。
「もうダメだよ、オレは。あきらめてくれ。家中の財産は灰まで執行吏に差し押さえられることになったんだ」
どんなに嘆き悲しむかと思いきや、意外に妻は、微笑してこうたずねた。
「それは大変ね。しかし執行吏は、あなたの身体も差し押さえるのですか」
「いや、そんなことはない」
「じゃ、私の身体が差し押さえにあうの」
「いやいや、おまえは関係ないよ」
「坊やは?」
「子供なんか、問題でない」
「それじゃあなた、なんですか。家中のものをなくすというわけじゃないじゃないの。健康な私たちと、夢を秘めた子供たち──一番大切な財産が残るじゃありませんか。
私たちは少しだけ遠回りしただけでしょう。お金や財産なんか、これからの心がけ次第で、いくらでもできるじゃありませんか」
妻のたのもしい励ましに、しょげていた主人の顔は、パッと一度に明るくなって、みごと、苦境を克服したという。
実験で、ウサギの足にギブスを巻く。
オスはたちまち怒り、首をふり、ギブスをかみ、束縛から逃れようと必死の努力を試みる。
この間もちろん、エサなど食べようとはしない。ひたすらかじり続けるのである。
ところがメスは、初めの1時間ぐらいは、やはりかじるが、そのうちダメだと知るとあっさりあきらめ、食事をとり、休養し、ムダな体力のロスはしないという。
この結果、先に弱って死ぬのは言わずと知れたオスで、その愚かな弱さと、メスの一種独特のしたたかな強さは、人間のそれに似ているようだ。
そういえば女性の平均寿命が、いつも勝っているのもうなずける。
本来の女性は人生の、やはり大地のようである。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)