(46)一番好きな人を生命がけで育ててくださった
お母さんが、一番好きです
あるところで、熱心に仏法を求めている娘を、嫁にもらった。
初夏の夜、雷で主人を失った姑さんが、激しい稲妻と、天地にとどろく雷鳴に、ひとり蚊帳の中で恐れふるえていた。
かねてから雷ノイローゼの母親を案じて、2階からおりてきた嫁が、さっそく、蚊帳の中に入り、母親をしっかり抱きしめてなぐさめた。
「お母さん、蚊帳の中にいれば心配いりませんよ。雷は電気ですから、麻の蚊帳には通じません。死ねば一緒です」
なかなかもどらぬ妻を案じて、おりてきた息子が、母親を抱いている妻を見て感動した。
「おまえはあんなに、お母さんが好きかい」
部屋に帰って、夫の問いに妻は、
「あなたが世界中で一番好きです。一番好きな、そのあなたを、生命がけで育ててくださったお母さんですから、一番好きです」
こんな嫁を迎える家は幸せなり。
こんな妻に恵まれた夫は幸せなり。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)