(56)推薦状などにたよるな!
なにものにも勝る紹介状を身につけよ!
世界に名高いニューヨークのウールウォース商会が、監督1名を募集した。
応募した希望者には、立派な推薦状をたずさえた者が多い。
ところが採用されたのは、なんの学歴もない、紹介状も持たなかった一青年である。
採択理由に、こう記されてあった。
「彼は一葉の紹介状も持参しなかったが、実に多くの、明白な紹介状をたずさえていた。彼は部屋に入るとき、まず足のちりを払い、入室すると静かに扉を閉じた。注意深い性格がうかがえる。
席に着こうとしたとき、彼は、身体の不自由な老人のいるのを見て、すぐに席をゆずった。親切でやさしい人格が知られる。
部屋に入るや、まず帽子をとって一礼し、はきはきと我々の質問に答えた。丁寧で礼儀正しいことがわかる。
彼はまた、少しも先を争うことなく、己の番のくるのを規律正しく待っていた。
その服装はお粗末だったが清潔で、髪はきれいにととのえられ、歯は乳のように白かった。
署名した彼の爪の先には、少しのあかも見ることはできなかった。
これこそは、なにものにも勝る紹介状ではあるまいか」
社会は有為の青年を望んでいる。
高校、大学は林立し、知的教育は急進しているかもしれないが、徳育はかえって退歩しているのではなかろうか。
ウールウォース商会幹部が見ぬいた、なにものにも勝る紹介状を身につけたものこそ、社会国家を浄化することができるのであろう。
(高森顕徹著 光に向かって 100の花束より)